3 卵と乳製品を一切持ち込まない、特別な場所


ブログがきっかけを作ってくれた

メロンパンを販売するようになって、金沢市や小松市など遠方からのお客様も来店されるようになりました。

でも、スーパーの中のパン屋ということもあって、地元の方に見つけてもらうことが難しい。

ここに焼きたてパン屋があるよ!ってお伝えするためにはどうしたらいいのか?


2009年当時、流行っていたのがブログでした。

よし!ブログを書いて、地元のお客様に見つけてもらおう!!

日々のお店のこと、アレルギーのこと、新商品の事などをブログで発信することに。

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すると、しばらくしてお問い合わせをいただけるようになりました。

「うちの子、アレルギーでパンが食べられないんです。そちらで作っているパンを送っていただけませんか?」

お問い合わせをいただいたのは、東京の方でした。

その後も大阪、福岡、名古屋からお問い合わせが…


宅配でお送りすると、どんなに急いでもお届け出来るのは焼けた次の日です。

トントンは焼きたてパン屋。

焼きたてではないパンを召し上がっていただいて、代金をいただくわけには…


そう思い、丁重にお断りすると、

「美味しくなくてもいいです!とにかく送ってください!!」って。

お客様の勢いに押されて、納得の行かないままパンをお送りしました。


翌日。

「こんなに美味しいパンを作ってくださって、ありがとうございます!とても喜んで食べています。また注文しますので、よろしくお願いします!!」

お礼のお電話をいただきました。


地元の方に知っていただきたくって書き始めたブログ。

でも、その当時は、まだ石川県でブログを書いたり読んだりしている方はほとんどいなかったんだと思います。

お問い合せはもっぱら都会の方から。

日に日にお問い合わせが増えていきました。


電話でご注文をいただくのは、想像以上に大変でした。

お客様のご住所を伺って、伝票を書いて、ご注文通りパンを作って・・・

もちろんお店のパンも作らなくてはいけません。

しかも、作った当日に発送しなければいけない。

もう、お店はてんやわんやです。

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お電話で大量のメロンパンのご注文をいただいて、お店にメロンパンを買いに来られたお客様にお渡しできないことも。

「その目の前にあるメロンパン、何で買えないの!わざわざ遠くから来たのに!!」

よくお叱りをいただきました。


このままではパンクする、どうにかしなければ…

お客様に背中を押されて、ネットショップを作ることに。


当時は簡単にネットショプを作ることは出来ませんでした。

制作会社にお願いすると、見積もりが50万円!

とても小さなパン屋が出せる金額ではありません。


インターネットといえば検索をする程度、メールもほとんど使わず用件はもっぱら電話でした。

パソコンは持っていましたが、ブログと年賀状作成専用の端末のようなものです。


ネットショップ…できるのか?…


右も左もわからずに、ネットショップを作ることになったんです。


ネットショップ開店がパン工場建設のきっかけに

夕方までパンを作って、夜はネットショップ作り。

仮想空間のお店とはいえ、いいお店にしたい。

目指すは「パンがたくさん並んでいて、買いやすくて、信頼できるお店」


文章を書くことはできても、画像が貼れない、色を変えることもできない。

わからないことはインターネットで検索、気付けば夜中の3時。

そんな生活が続きました。

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徐々にインターネットからご注文をいただけるようになり、パンを作る工程も整ってきました。

とは言うものの、狭い店です。インターネット注文専用の窓口もなければ、スタッフもいません。


接客係は店頭でレジをしながら、インターネット注文の取り揃え。

10件もご注文があると、パンク状態。

商品の入れ忘れや入れ間違いのミスも発生するようになってきました。


何とかしなきゃ…


そんな中、今でも忘れられないお電話をいただいたんです。

それは、名古屋からのお客様でした。


「お医者さんに、卵や乳製品を少しでも食べると死ぬって言われたんですけど、そちらのパンを食べることはできますか?」


あっ、それは、、、難しいです…


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ここでは卵のサンドイッチもミルククリームのパンも作っている。

卵や乳製品が混入しないように、細心の注意を払ってパンを作っているけど、混入する可能性があるパン。

その時気付いたんです。

アレルギー対応パンじゃない、「原材料として卵と乳製品を使わないパン」だということを。


軽度のアレルギーの方にはオススメできますが、重度のアレルギーの方にはオススメできないパン。

「もしかしたら、アレルギーが出るかもしれませんが、食べてみますか?」と伺いながらパンを販売しているという事実。


薄々感じていましたが、それを心の中で隠して商売をしているストレスに耐えられなくなりました。


これを解決するためには、お店とは別の場所でパンを作るしかない。

卵と乳製品を一切持ち込まない、特別な場所。

重度のアレルギーの方にも安心してオススメできるパンを作りたい。


特別な場所を求めて、不動産屋さんに行きました。


アレルギー対応パン工場をオープン!

お店のある能美市のほとんどは田畑か山です。

開けている場所は住宅地。

空いている工場や倉庫はほとんどなく、あっても住宅地の中でした。

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住宅地の中に工場を作ることはできません。

都市計画法に基づき、用途地域が指定されているからです。


困りました。

お店がある能美市では難しそうです。

不動産屋さんに相談すると、隣の小松市のある物件を紹介されました。


家賃もそれほど高くなく、お店からのそう遠くない。

でも、9坪の物件。

せめて15坪くらいは欲しい・・・


迷っているうちに隣の物件が目に入りました。

小松市倉庫、建坪134坪、駐車場10台、家賃「用応談」


相場を考えると、家賃は30〜40万円くらい。

冗談混じりで不動産屋さんにこう言いました。

「家賃10万円だったらここ借りるんですけど…」

家賃は用応談と聞いていますので、ダメ元で家主さんに相談してみましょう!


数日後…


「家主さんから家賃10万円でOKが出ました!」

えぇっ( ゚Д゚)!


家主さんは地元スーパーの「株式会社マルエー」さんでした。

なんと担当者の方は、トントンでいつもパンを購入されているお客様。

お孫さんが、卵と乳製品のアレルギーで、いつもお世話になっているとおっしゃるではないですか!

意気投合し、商談も上手くまとまりました。


2012年3月。

無事、アレルギー対応パン工場をオープンすることができたのでした。

スタッフ4人からのスタートです。

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仕事のない、危ういスタート

建坪134坪。

4人のスタッフで作業するにはあまりにも広すぎます。

半分のスペースに厨房を作って、半分は倉庫。

いよいよ、新しいトントンのスタートです。


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ネット販売専用のアレルギー対応のパン工場。

卵と乳製品を一切持ち込まない工場なので、これでやっと重度のアレルギーの方にも自信を持ってオススメ出来る!

お店もネット販売用の商品を作らなくても良くなったので、地元のお客様にしっかりとおもてなしが出来る!!


とは言うものの、一日10件程度のご注文で工場を運営できるほど甘くありませんでした。

すぐにご注文分を作り終わってしまい、午後にはやることがない…

そりゃそうですよね。

一日10人しかお客様が来られないパン屋なんて、すぐに廃業です。


ほとんど使われることのないピカピカの機械の掃除と、建物の周りの草むしり。

そんな日が続きました。


仕事もないのに掃除ばかりするわけにも行かない…

ネット販売だけではなく、卸販売先を見つけよう!

そう思い立ち、石川県のスーパーさん、そして生協さんに営業することにしました。


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電話でアポイントを取って、営業回り。

初めての経験です。


「アレルギーを持って生まれる子が毎年増え続けています。特に多いのが卵と乳のアレルギーです。そんな子供たちが食べられるパンを作りました!こちらで販売いただけませんか?」

そうお伝えすると、みなさん同じことを言われるんです。

「トントンハウス?知らないなぁ〜卵と乳製品を使わないパン?おいしいの??で、いくら??」


製造メーカーが売り込みをすると、必ず価格からの話になってしまいます。

当然です。

販売店は、利益が見込めない商品を販売するわけには行きません。


どこのスーパーさんにも販売されていていません!

みんなアレルギーで困っているんです!!


その想いがスーパーさんの担当者に伝わることはありませんでした。


ららぽーと横浜での催事

そんな中、イトーヨーカドーさんから催事のお話をいただきました。

期間は一週間。田舎では考えられないくらい大きなショッピングモール、ららぽーと横浜の中のイトーヨーカドーさんの催事コーナーです。

小さな田舎のパン屋には願ってもないチャンス!


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・都会の方ではアレルギー対応パンの需要はあるのか?

・焼きたてでもないパンを並べて、果たして売れるんだろうか?

・右も左も分からない場所で、知名度も全くない場所で、受け入れてもらえるものだろうか?


不安は尽きません。


でも、せっかく機会をいただいたんです。

赤字になってもいいから、とにかく挑戦してみよう!

パンをどんどん焼いて、毎日横浜に送りました。


販売はきよみさん。一週間の出張です。

当時のららぽーと横浜の来客数は、なんと10万人。(ちなみにお店がある能美市の総人口は3万人^_^;)

通路は人・ひと・ヒト!

さぞかしパンが売れるのかと思いきや、ほとんどの方は素通りです。


そんな中でも、試食を配っているとポツリポツリとお客様が寄ってこられるようになりました。

「これ、卵も乳製品も使っていないの!ホント!!そんなパン、初めて!友達の子がアレルギーだから、呼んできます!」

日に日にお客様が増えていきました。


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ここでも多くの方に知っていただけたのはブログの力。


ブログで知って来ました!と茨城県から来られたお客様。

いつもインターネット販売をご利用いただいているお客様。

がんばってね!と声をかけてくださった警備員のおじさま。


全てブログを読んでくださっているお客様でした。

石川県に篭っていたんじゃわからなかった感覚です。

ブログって、スゴイ!


そんなこんなで、最終的には運送料が響いて赤字になりましたが、たくさんの方にお目にかかって、たくさんお話させていただきました。

「パンを売る」と言うより、「たくさんの方との出会い」のための催事。

とてもいい経験をさせていただきました。


初めての卸販売は、またしてもお客様からの後押しから

催事が終わって3ヶ月。

ほとんどご注文をいただけない状態が続きました。

このまま行くと、このパン工場を運営していくのは困難です。


営業に行っても成果なし。

インターネット広告を出してもほとんど反応なし。


困りました。


そんな中、一本の電話が…

「カジマートと申します。御社のパンを卸していただきたいのですが、いかがですか?」


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カジマートさんは、金沢市の北部、津幡町を中心に展開されているスーパーさん。

売り込み営業には行っていない地域でした。


「お客様から『トントンのパンを置いて欲しい』とのご要望があって、先日こっそりと買いに行きました。こんなに美味しいパン、ぜひ!カジマートで販売させてほしい!!」

カジマートの常務さんから直接お電話をいただきました。


そのお客様は週に2回、お家から30km離れたカジマートさんに通われてて、なんと60kmも離れたウチのパンも買いに来てくださってると言うじゃありませんか!

そのお客様だけでも喜んで下されれば・・・とカジマートさんが声をかけてくださったんです。

一人のお客様のために動かれるスーパーさんって、他にあるでしょうか!!

もう、感動です。


打ち合わせもかねてカジマートさんに伺うと、店頭で店長さんとお話ししてると・・・

なんと、そのお客様がいらっしゃるではありませんか!!

こんな偶然、あるんでしょうか?


少しの時間でしたが、3人でお話しさせていただきました。

アレルギーのこと。今まで諦めていたパンが食べられる喜び。トントンのパンが給食で活躍していること。

話は尽きません。


一人でもお客様が喜んでくださるのであれば、そんなに売れなくてもずっと続けて販売していきたい。

カジマートの常務さんはそうおっしゃってくださいました。


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その後、カジマートさん全6店舗に置いていただけるようになりました。


全国のスーパーさんからお問い合わせが!

金沢市の北部、津幡町を中心に展開されているカジマートさん。

その地域からトントンまでは30km以上あります。

そんな遠くのお客様に手に取ってパンを選んでいただける。

地域密着のパン屋にしてみれば、夢のようなお話です。


一人でも多くのアレルギーで困っている子供たちに伝えたくって、カジマートさんで販売いただいていることをブログに書きました。

カジマートさんで販売いただいていることをブログに書きました。


すると…

しばらくして…


しずてつストアさん、遠鉄ストアさん、グリーンマートさん、いちやまマートさん、ミートモリタ屋さん、スーパーやまのぶさん…


全国のスーパーさんからお問い合わせが!!


「当店のお客様より『トントンのパンを置いていただけませんか?』とのご要望をいただいたのですが、お取引することは可能ですか?」

口を揃えたように、みなさん同じことをおっしゃるではありませんか!


そうです。

カジマートさんの販売が「お客様の声」から始まったように、全国のお客様が「いつも行っているスーパーにトントンのパンがあれば!」とご要望をお伝えくださったんです。


「応援しています!私にできることがあったら教えて下さい!!」

「アレルギーがある子供たちには貴重なお店です!長く続けてください!!」

「お客様の声、今から書いてくるから、ちょっと待ってて!!」


たくさんのお客様より応援のお電話やメールをいただきました。


現在お取り引きいただいているほとんどのスーパーさんには、焼きたてパン屋が併設されています。

にも関わらず、ご注文いただけるって本当にスゴイこと。


・卵と乳製品を抜いたパンを作ったこと

・パン工場を作ったこと

・スーパーさんで販売できるようになったこと


全てがお客様に導かれて始まったこと。

本当にお客様に感謝です!


マスコミの取材

ほどなくして、地元の新聞、雑誌、テレビから取材のお問い合わせをいただけるようになりました。

毎回、緊張でガッチガチ(^_^;)


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お客様にご要望をいただいたことを「パン」という形にしてお答えしてきただけ。

そんなに難しいことをしてきたわけではありあせん。

でも、みなさんとても感動してくれるんです。


振り返ってみると…


大学を卒業後、設計の仕事に従事するも、つまずいてウツ状態。

妻に導かれるようにパン屋に転職。

独立するも、パンが全く売れず、実力のなさを痛感。

お客様にお願いされて、アレルギー対応パンを作り始めた。


まったくもって、自分から未来を切り開いていません。

実力が足りなかったんです。


でも、それが逆に良かった。


もし、自分に実力があったら、自分の信じる道を進んでいたでしょう。

他人の言葉に耳を傾けることもなく。

そして、パンが売れなかったら、こう言っていたでしょう。

「お客はパンの文化をわかっていない」と。


仕事ができなかったからこそ、お客様の声を素直に聞くことができた。

そう思うんです。


マスコミの影響は絶大です。

親戚のおじさんは、掲載された新聞を毎朝眺めています。

スタッフもテンションが上って、今まで以上に仕事に力が入ります。

地元のお客様も「テレビ見たよ〜」と、とても喜んでくださいます。


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パン屋は力もいるし、時間も長い重労働な仕事。

でも、これほど「みんなが笑顔になる」仕事は他にないかもしれません。

そんなパン屋になることができて、本当に嬉しいんです。



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