洋裁士だからこそ感じる「着物」という衣類

幼い頃は、絵本の世界に憧れる女の子でした。

白雪姫、シンデレラ、白雪姫、シンデレラ。

母親や姉に、毎晩のように交互に絵本を読んでもらっていました。

ドレスに憧れて洋裁学校に行った人間です。


歴史から見る着物と洋服

洋裁学校では、洋服の作り方はもちろん、洋服の素材についてや立ち振舞い、歴史を学ばせてもらいました。

着物はオーダーメイドで作るのが当たり前ですけど、洋服は既製品が当たり前ですよね。

洋服が日本に入ってきた時、ものすごく高価なものでした。


当時は既製品という概念はなく、フルオーダー。

布生地を細かいパーツに切り分けて組み立てることで完成します。

生地は日本で作ることができないため輸入品、あまり布もたくさん出ますし、そもそも作ることが出来る人も多くありません。

とても庶民が手を出せる衣服ではありませんでした。


洋服は着れなくなったからって言って、大きいものに作り直すことができません。

日本に洋服が入ってきた時、日本人はもったいないもったいないと思って、洋服がなかなか浸透しませんでした。

着物は着れなくなっても、大きなシーツや座布団の表地、風呂敷や雑巾などに作り直せます。

全部が直線縫いだからできることなんですよね。


男性は社会に出なくてはいけないので、西洋文化が早く浸透しました。

西洋の動きになじみやすい服装になる必要があったからです。

サザエさんの波平さんやマスオさんのように、男性は外では「洋服」、家に帰ったら「着流し」という時代もありました。


今は、着流しがユニクロのジャージに。

石川県のような田舎では、お父さんのジャージ率が異常に高いです(笑)

洋服のほとんどは既製品となり、大量生産、大量消費の時代。

価格はどんどん安価になりました。


着物と同じようにオーダーメイドの洋服を作ったら・・・

洋服の場合、限られたパターンの中から、体型に一番近いパターンをセレクトして組み合わせる「イージーオーダー」という作り方があります。

安いところでは、3万円くらいでイージーオーダーのスーツが買えるでしょうか?

着物を作るように、テーラー(仕立て屋)に採寸してもらってフルオーダーで作った場合、どんなに安くても10万円くらいはするでしょう。


それを考えると、着物ってそう高くないんじゃないかって思うんです。

しかも、シルク100%の着物も作れます。

シルク100%の洋服って作ろうと思ったら、いくら掛かるんでしょう?


私は洋服ではありますが、作り手側の人間だったので、作り手側の苦労もわかりますし、着物の値段もそれ相応だな、逆に安すぎないのかな?って思うのが正直なところです。

一年かかって数本しか作れないような反物がその職人さんの一年の収入だと考えたら、一体いくら渡したらいいんでしょうか?


そんなこと言っていたら、私は破綻します

その職人さんに対価を払いたいと思っていても、私たちの懐がついていかないっていうのは正直なところだと思います。

ローンを組んでまで買う必要はないと思うんですね。衣類に関しては。

なので、アウトレットの紬やウールの着物を安く買って、八掛が擦り切れたら直しに出したり、その時に自分のサイズに直してもらったりとかして、大切に着ています。


でも、それって、昔からやっていることなんですよね。

江戸時代とかだって、裕福な人は高い着物を誂えるけど、庶民の方がちょっといい着物を着なければいけない時は質屋さんで調達して、自分のサイズに作り直して着ていたわけです。

私は庶民なので(笑)

古着屋から買って使うっていうのは、昔で言えば普通のこと。


その中でも、人生で何回か「良いものが欲しい」って時があると思うんです。

そんな時に初めて、高いお金を払って一張羅を作ってもらうというのが、生きたお金の使い方なんじゃないかなと思うんです。


「物を大切にする」精神に合っている「着物」という衣類

「呉服屋さんの口車に乗せられて、高いものを買わされた…」と後悔している着物の帯も可哀想だと思うんです。

それを作った職人さんは、「素敵なお召し物で気分がいい」と言ってもらったり、「これを着て、笑顔になってくれる人がいたらいいな」と感じてもらうことを願って作っていると思うんです。

作り手ってそういうものだと思うんです。


だから、買う側も「もうちょっと袖丈の短い物が使いやすい」とか、「袖口の空きは浅い方がいい」とか…自分はどんな着物が欲しいのか?

洋服だったら大変かもしれないけど、着物だったら仕立て屋さんに言えば簡単に直してもらえます。

着物はフルオーダーメイドが普通だから、自分の好みさえわかっていれば、自分に合った着物に仕立てることができます。


擦り切れてもほつれても、体の大きさが違う人が着ることになっても、少しの手直しで長く着ることが出来る「着物」という衣類は、「ものを大切にする」日本人に合っていると思うんです。

洋裁士だからこそ感じる「着物」という衣類